大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分地方裁判所 昭和38年(行)1号 判決 1964年6月26日

別府市大字別府二七九番地の三

原告

天野千之助

市流川通一一丁目

被告

別府税務署長

佐藤浩

指定代理人 広木重喜

塚田尚徳

態谷英雄

長野愛彦

岩崎義朝

岡明

各当事者間の昭和三八年(行)第一号譲渡所得税更正決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

原告は、「被告が原告に対し昭和三七年六月一四日付でなした、原告の昭和三六年度の課税評準となる所得金額を二二二万六六〇九円、その所得税額を四七万一、〇五〇円とする更正処分のうち、所得金額七五万九、九二五円、その税額五万四、四一〇円をこえる部分はこれを取消す訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

被告は、主文同旨の判決を求めた。

第二、原告(請求原因)

一、原告は昭和三七年三月七日被告に対し、昭和三六年度分の所得税に関し、譲渡所得四一万四、一九六円(別府市大字別府字中原三、一〇八番の一、原野八畝一二歩―以下、本件土地という―の譲渡価額二〇〇万円)にその他の所得三四万五、七二九 円を加え、原告の同年度の課税評準となる所得金額が七五万九、九二五円、これに対する所得税額が五万四、四一〇円であるとして確定申告をした。

二、被告はこれに対し同三七年六月一四日付で課税評準となる所得金額を二二二万六、六〇九円(うち譲渡所得一八八万八八〇円)、所得税額を四七万一、〇五〇円とする更正処分をなし、原告は同月一五日ごろその通知を受けた。そこで原告は被告に対し同年七月九日再調査の請求をしたが、同年一〇月五日付でこれを棄却され、原告は同月六日ごろその通知を受けた。そこで更に原告は同年一〇月八日熊本国税局長に対して審査請求をしたが、昭和三八年四月一二日付でこれを棄却され、同月一五日付でその通知を受けた。

三、しかし被告のなした前記更正処分については、原告の昭和三六年度の課税評準となる所得金額が請求原因一主張のとおりであるから、右金額を超える部分は違法である。よつてその部分の取消を求める。

第三、被告(請求原因に対する認否及び主張)

一、原告主張の一、二の事実は認める。

二、被告の主張

(一)  原告主張の所得税確定申告に関し、被告が調査したところ、原告は本件土地を昭和三六年五月一〇日に訴外別府観光交通株式会社に対して金五一〇万円で売渡した事実が判明した。

(二)  そこで被告は原告に対し、昭和三七年六月一四日付をもつて譲渡所得を一八八万八八〇円(譲渡価額五一〇万円から本件土地の所得価額一〇二万一、六〇八円及び本件土地に附随する温泉引湯権の取得価額一五万円並びにこれらの購入に要した費用一万六、六三二円、合計一一八万八、二四〇円を控除した額から、更に一五万円控院した額の二分の一)とし、その他の所得三四万五、七二九円を加えて総所得金額を二二二万六、六〇九円とし、これから原告の申告による諸控除額三四万一七〇円(社会保険料控除七、六七〇円、生命保険料控除二万二、五〇〇円、配偶者控除九万円、扶養控除一三万円、基礎控除九万円)を控除し、課税総所得金額を一八八万六、四〇〇円、所得税額を四七万一、〇五〇円と更正する処分をしたのである。

以上のとおりであつて、被告のなした更正処分には何ら違法はない。

第四、原告(被告の主張に対する認否)

一、被告主張の(一)、(二)の事実のうち本件土地とこれに附随する温泉引湯権の取得価額及びこれらの購入に要した費用並びに総所得金額からの諸控除額が被告主張のとおりであることは認めるが、本件土地の売買価額及びその当事者については争う。

二、原告は昭和三六年五月二日に訴外天野保を代理人として、訴外脇坂安太郎を代理人とする同牧野弘に対し本件土地を代金二〇〇万円で売渡し、右牧野は右脇坂を代理人として同月一〇日に訴外別府観光交通株式会社に本件土地を代金二〇〇万円で売渡した。所有権移転登記は原告から同訴外会社に中間省略によつてなされ、また昭和三六年五月一〇付で原告と同訴外会社間の売買契約書が存在するけれども、真実に反するもので、単なる売渡証書の意味しかない。

第五、証拠

原告は甲第一ないし第四号証を提出し、乙第四、第五及び第七号証の成立は認める。その他の乙号各証の成立は不知と述べ、被告は乙第一ないし第七号証、第八号証の一、二を提出し、証人西山博美、同脇坂安太郎、同山田五郎の各証言を援用し、甲号各証の成立はいずれも認めると答えた。

理由

一、原告主張の一、二の事実及び被告主張の事実のうち原告の別府市大字別府字中原三、一〇八番の一の原野八畝一二歩とこれに附随する温泉引湯権(以下、本件土地等という)の取得価額及びその購入に要した費用並びに昭和三六年度の所得控除額が被告主張のとおりであることは当事者間に争いない。

二、そこで本件土地等売買の当事者及び売買代金額について判断するに、成立に争いのない甲第一、第四号証、証人西山博美の証言により真正に成立したものと認める乙第一、第六号証、証人脇坂安太郎の証言により真正に成立したものと認める乙第八号証の二と証人西山博美、同脇坂安太郎の証言を総合するとき、次の事実を認めることができる。

原告は昭和三六年五月一〇日に、本件土地等を、訴外天野保を代理人として、同有限会社西日本不動産の仲介により、同別府観光交通株式会社に代金五一〇万円で売り渡した。その際本件土地等に関する不動産売買契約書(甲第一号証)面の売買代金額は、原告の所得税を軽減しようとはかつていた保の要求により、保と別府観光間の合意で二〇〇万円と記載されたのであるが、真実の売買代金は右の如く五一〇万円であり、その代金は即日原告方で保が別府観光の経理課長西山博美から金額を受領した。しかし保は本件土地等の所有権移転登記完了を理由として別府観光に対し売買代金領収証の交付を拒んだため、同会社の経理の必要上やむなく前記西日本不動産の代表者脇坂安太郎外一人が、本件売買代金五一〇万円の領収証を別府観光に代つて発行した。成立に争いのない甲第二、第三号証のうち右認定に副わない記載部分は、前掲各証拠に照して採用し難く、他に右認定を覆えすにたりる証拠はない。

三、次に更正処分の適否を判断するに、本件土地等の取得価額及びその取得に要した費用が合計一一八万八、二四〇円であることは当事者間に争いがない。そこで本件土地等の売買代金を前認定のとおり五一〇万円として所得税法九条一項前文、八号により原告の譲渡所得を計算すると、別紙算式、(1)、(2)のとおり一八八万八八〇円となる。原告には昭和三六年度中に右譲渡所得のほか合計三四万五、七二九円の所得があること、所得控除の合計が三四万一七〇円であることは当事者間に争いがないから、これと右譲渡所得とから、原告の昭和三六年度中の課税評準となる総所得金額を計算すると別紙算式(3)のとおり、一八八万六、四〇〇円(国税通則法九〇条一項、附則一二条により一〇〇円未満切捨て)となり、これに対する所得税額は別紙算式(4)のとおり四七万二七四〇円となる。(税率は昭和三七年法第四四号による改正前の所得税法一三条一項による)。

四、以上の判示のとおりであつて、被告のした本件更正処分は違法でないから、右更正処分の取消を求める原告の本訟請求は失当である。

よつて原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤野英一 裁判官 関口亨 裁判官 多加喜悦男)

(別紙)

算式 (1) 5,100,000円-(1,021,608円+150,000円+16,632円)=3,911,760円

算式 (2) <省略>

算式 (3) 1,880,880円+345,729円-340,170円=1,886,439円

算式 (4) <省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例